小林登「子ども学」賞について
第4回(2026年)受賞者紹介
Kids Loco Project
■受賞者プロフィール・業績
Kids Loco Project は、「身体に不自由がある子どもたちが自分の意思で動くことを保障したい」という共通の目標のもと、医療者(医師、PT, OTなど)、工学研究者、臨床心理士、教育関係者、当事者(子どもとその家族)から成るメンバーが、電動移動機器開発、 実践活動、 講演会を 中心とした活動を行っている団体である。 2014年に活動を開始し、毎年定期ミーティングの開催や、「電動移動機器マニュアル」の無償配布などの活動を通して、電動移動機器の普及啓発を図っている。
■贈賞理由
Kids Loco Project(以下、本プロジェクト)の活動および業績は、身体障害を抱える乳幼児の発達支援において、従来のパラダイムを大きく転換させる先駆的な取り組みであり、以下の3つの視点から極めて高く評価された。1)子ども学への貢献度
本プロジェクトの最大の特徴は、身体障害により自律的な移動が困難な子どもたちに対し、幼児期という極めて早期から電動移動機器を用いた支援を行うことで、運動機能の補完にとどまらない「全人的な発達支援」を実践・推進している点にある。
近年の乳幼児発達心理学や脳科学のエビデンスによれば、自らの意思で移動し、環境を能動的に変える経験(自律移動経験)は、単なる移動手段の確保を意味しない。それは、空間認知の獲得、他者とのコミュニケーションの活性化、さらには「自分の力で世界に働きかけられた」という自己効力感の醸成など、脳と心の爆発的な成長と発達を促すトリガー(引き金)であることが明らかになっている。
本プロジェクトは、この今日、潮流となりつつある最新の発達理論をいち早く臨床・教育の現場で実践し、身体障害児リハビリテーションのあり方に劇的なパラダイムシフトをもたらすものである。さらに、現行の補装具費支給制度が抱える「就学前児への適用制限」という高い制度的バリアに対し、実践をもって果敢に挑戦している。
既存の専門領域の枠組みを超え、医学、工学、心理学、教育などの多領域の専門家と当事者・家族との協働により、子どものQOL(生活の質)向上に挑む姿は、故・小林登先生が提唱した「子どもを総合的・学際的に捉え、その幸せに貢献する」という「子ども学」の理念に深く合致し、同分野への貢献度は極めて大きい。
2)研究業績や活動の卓越性
現在、市販されている電動車いすの多くは成人仕様であり、座位を保って操作するタイプが主流である。そのため、座位保持や自力操作が困難な障害児、あるいは体格の小さな幼児が直感的に使える移動機器は国内にほとんど存在しなかった。この深刻な課題に対し、本プロジェクトが医療・工学・当事者の英知を結集し、子どもが主体的に活用できる独創的な電動移動機器の開発から、市販化、さらには導入のための「電動移動機器マニュアル」の作成・無償配布までをトータルで成し遂げた研究・実践実績は特筆に値する。
本プロジェクトが提供するのは、単なる「モノ(機器)」ではなく、子どもが主体性を獲得するための「環境」そのものである。開発された機器の実装を通じて、乳幼児期からの自律移動経験がその後の認知・感情・社会性の発達にどのような正の影響を及ぼすかという実証的データの蓄積が進めば、これまで公的支援の対象外とされてきた乳幼児期への福祉制度の見直しを迫る強力な科学的根拠となり得る。社会実装と学術研究を高いレベルで循環させている点は、極めて卓越した業績であると認められる。
3)社会への波及効果の大きさ
2014年の活動開始以来、本プロジェクトによる国内外への積極的な情報発信と啓発活動により、開発された電動移動機器は一部のリハビリテーション施設や障害者施設、特別支援学校へと着実に導入され、多くの子どもたちに「自分の意思で動く喜び」を届けてきた。
今後、本プロジェクトによって臨床的・発達的な実証エビデンスの創出がさらに強固なものとなれば、その波及効果は一施設、一地域にとどまらない。それは、日本の障害児福祉および教育の現場に対し、子どもを「ケアの対象(受け身)」から「能動的な探究者(主体)」へと変革させる強烈なインパクトを与えるものである。 Kids Loco Projectの未来への波及効果は、非常に大きいと確信し、ここに賞を贈り、その功績を称えるとともに、今後のさらなる発展に強い期待を寄せるものである。
■受賞者挨拶(coming soon)
■関連情報
●Photo album:ありし日の小林登先生(2023.03)●小林登「子ども学」賞 創設の喜び (2023.09)
●小林登「子ども学」賞の誕生とその未来(2023.03)
●小林登先生の大学時代の思い出(2023.03)





