小林登「子ども学」賞について
第2回(2024年)受賞者紹介
■受賞者プロフィール・業績
精神科医の北野陽子と精神科看護師の細尾ちあきが、精神障害のある親をもつ子どもたちのケアとサポートのために、2015年6月に法人化したNPO団体。細尾ちあきの個性的な絵を活かした絵本や教材づくり、サイトによる情報発信が事業の二本柱。子どもに応援メッセージを与えるだけではなく、大人にも精神疾患への知識や対処法への理解を促すことを目的にしています。第2回やなせたかし文化賞大賞受賞。
■贈賞理由
NPO法人ぷるすあるはの活動・業績について、下記の3つの視点で評価した。1)子ども学への貢献度
精神障害のある親をもつ子どもたちへのケアとサポートという、日本では未開拓な領域に焦点を定め、科学的知見に基づいて、子ども自身の生きる力を信じ伸ばそうとしている点を高く評価しました。さらにこの取り組みが、子どもに応援メッセージを与えるだけではなく、大人にも精神障害への理解を促していると考えます。このことは、小林登先生が提唱された子ども学におけるチャイルドケアデザインの優れた実践例であると受け止めることができ、学際的な子ども学が貢献できる領域を開拓し、子ども学研究者に新たな課題や支援のモデルを提供したという意味からも、子ども学に大きく貢献していると評価しました。
2)研究業績や活動の卓越性
実践活動はその数だけ独自性と卓越性があることは委員会としても強く認識しております。精神障害に対する偏見がいまだに根深い社会において、困難をかかえる子どもを支援し、実践活動だけではなく、社会全体への卓越的な啓発活動を継続的に進めてきたものとして高く評価しました。具体的には、子どもの気持ちに寄り添うとともに、大人の心にも確実に届くリアリティをもつ情報コンテンツ制作を⽀援活動のインフラと考え、絵本の提供や情報サイトによる発信に力を入れている点、⼦どものサバイバルする⼒を重視するという視点は、困難を抱えた子どもの主体性を尊重するという点で卓越性を⽰していると考えます。これらを総合して、精神障害のある親が抱える子育ての困難さにも向き合い、家族を丸ごと支援しようという活動は他に類を見ない優れたものであると評価しました。
3)社会への波及効果の大きさ
最後に、本実践がもつ波及効果についての評価を述べます。多様性が叫ばれる今日においても、精神障害のある親をもつ子どもの状況を考えると、社会的な偏見の存在を無視することはできません。当事者である子どもは他人に話してはならないことだと思い込み、親はそのことによって子どもを取り上げられるのではないかと恐れ、子どもの教育空間にある教師は家庭内の秘密で安易に触れてはいけないと考えることが多い、などの問題に向き合おうとしているのがこの取り組みであると審査委員は受け止めました。
社会がもちがちな精神障害に対する閉鎖的で偏見を伴う意識に対し、「わかりやすい解説」、「子どものリアルな表情を大切にした絵」を用いた、意識変容の可能性のある「絵本」というメディアを通して、精神障害のある親をもつ子どものケアとサポートを具現化しようとしている取り組みの存在は、小林登賞が目指しているものであると考えます。すべての大人たちがケアの必要な子どもの存在に気づき、子どもの支援者となる多くの人々に対応方法を伝え、精神障害への偏見が生まれにくい社会の構築に貢献しており、その社会への波及効果はきわめて大きいと評価しました。
■受賞者挨拶
Coming soon!
■関連情報
●歴代受賞者●第2回受賞者インタビュー(2024.09)
●Photo album:ありし日の小林登先生(2023.03)
●小林登「子ども学」賞 創設の喜び(日本子ども学会理事長) (2023.09)
●小林登「子ども学」賞の誕生とその未来(2023.03)
●小林登先生の大学時代の思い出(2023.03)