リレートーク
第2回 白梅学園大学子ども学部子ども学科
小林美由紀(白梅学園大学教授)
「子ども学」とは何か
日本子ども学会の初代理事長の小林登先生のもとで、「子ども学」研究が始まり、日本の各地で「子ども学部」を掲げる大学が誕生し、その中に2005年に創立した白梅学園大学もあります。もともとは、保育・福祉を中心とした短期大学でしたが、子どもに関わる様々な教員が集まり、保育・教育・福祉・美術・音楽・医学・心理・栄養・保健・体育・児童文化などなど様々な分野で研究、実践を行って来ています。私も2006年に赴任して加わりましたが、小林登先生とは、東京大学小児科での研修医時代に、病気があるなしに関わらない子どもたちとの関係の奥深さを教えていただいただけに、この「子ども学」とはどんな学問として発展して行くのかということに、常々関心を寄せていました。
実際、子どもの発達ひとつとっても、そのダイナミズムの解明は、科学、医学、心理、教育、文化、歴史、社会、どの分野も超えた多様性と学際性を秘めています。白梅学園大学では、「生涯発達論」ということも語られ、「子ども学」は、あらゆる学問の分野とつながっていくという可能性を考えてきました。ただ、同時に、学問分野の広がりから、どう体系づけたら良いのか、討論を繰り返しながら、なかなか定まっていかないという奥深さと、新鮮さがあるように思えます。もともと、子どもを対象とする学問として、「児童学」があります。この分野は、子どもを全人格的に捉えるという意味で大きな意義があったと思われますが、「子ども学」では、さらに1歩進めて、科学的な探究と社会的な考察を深めようとした分、学問分野を広げることになったと言えるでしょう。子どもをより主体的に捉えようとすると、ただ観察して理解するだけでなく、お互いの関係性から動的に変化していく「子ども学」も大切になってきています。
白梅学園大学での「子ども学」
白梅学園大学で、「子ども学部」を始めた頃には、新しい時代の先端を走っている気持ちで、大学院を立ち上げ、日本初の修士課程、さらには博士課程を続けて立ち上げました。夜間大学院ということもあって、様々な職域の方が仕事と両立しながら在籍していますが、幅広い専門領域に渡っているだけに、「子ども学」とは何かということを教員ともども自問を繰り返しているというのが、本音です。現学長の汐見先生が赴任当初に「軽自動車で高速道路を疾走している」と形容したように、小さい大学ながら、教職員が一体となって、学生達を手厚く育てようという気負いがありました。子ども学部にも子ども全般について学ぶ「子ども学科」だけでなく、心理学をベースに発達心理や障害のある子どもについて学ぶ「発達臨床学科」、子どもの環境や社会福祉について学ぶ「家族・地域支援学科」をそろえ、ここにきて、「人間学」にまで広げられる将来構想を考えています。もともと保育・教育・福祉の実践を主とした教育を行っていましたが、子どもと関連する分野にも関わって行くうちに、大人の営みを含めた「人間学」につながっていくと考えたのです。
白梅学園大学では、毎年「子ども学講座」を開催し、子ども学研究所では、「子ども学」を刊行し、様々な分野で活躍している方々との討論を続けています。まだまだ従来の専門分野に依拠することも多いのですが、学生たちの卒業研究を基にして開催している「白梅子ども学会」では、自由な発想を重視し、実践を大切にした研究会として継続していきたいと思っています。
これからの「子ども学」研究がめざすこと
少子高齢化時代に、子どもたちの未来を真剣に考えていかなければならないことは、誰にも異存がないことかと思います。それにも関わらず、子育てに負担感があったり、子連れの外出が大変だったり、子どもや福祉に関わる分野が財政的にも苦労している現実の中で、少しでも多くの方々に「子ども学」に関心をもって、子どもを取り巻く社会を探究していくことが必要です。今後は、これまでの領域にとらわれない視点と関係性の構築が大切ではないでしょうか。白梅学園大学は、「子ども学」を中心に据えた単科大学に近い大学ですが、一層深化するためにも、多くの分野の研究者とも連携していきたいと思います。
白梅学園大学子ども学部子ども学科
住所:東京都小平市小川町1-830
HP:http://daigaku.shiraume.ac.jp/university/dep-child/