速記録(山中裕子)

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「新しい遊びの空間デザイン -スヌーズレンの紹介」

山中 裕子 (日本スヌーズレン協会)

 スヌーズレン、耳なれない言葉だと思います。時間の許す限り御紹介をし、最後の討議のときに皆さんからいろいろなアイデアや切り口をいただくことで、私たちが取り組んできているスヌーズレンに新しい息吹をいただけたらと思っています。もう一人のスヌーズレン協会の会員であります小菅秀康さんと一緒に共同発表させていただきます。


スヌーズレンとは? ~語源・誕生・理念の変遷~

 スヌーズレンの語源、それはオランダ語を2つ組み合わせた言葉でありまして、スニッフレン(クンクンとあたりを探索する様子)、ドゥーズレン(うとうとと気持ちのいい様子)、この2つの言葉を組み合わせて、自由にゆったりと楽しむという姿をあらわしています。既にオランダの国語辞典には当たり前の言葉として今登載されています。スヌーズレンという言葉は当初、教育法や治療法ではない、ケアの理念である、そしてその理念を体現する空間と活動の総体をあらわすというところから出発しました。
 スヌーズレンの誕生、それは1970年代の中ごろに重度重複障害を持つ人々のための療養施設、ハルテンベルクセンターというところで考案されました。そして、オランダを中心にヨーロッパ全土にまたたく間に広がり、重い障害を持つ人たちのケアの分野だけではなく老人、健常児の施設、精神障害を持つ人々へと、また市民だれもが楽しめる公共施設へとも今は広く普及しています。
 また、スヌーズレンの空間づくりの場所も大変広がっています。固定した専用の部屋もあれば、ベッドサイドにあしらったり、居住空間の居間のコーナーにちょっとつくってみたり、おふろ場をスヌーズレンにしてしまったり、プールサイドやジャクージにスヌーズレンに取り入れたり。いま、アウトドアスヌーズレンという言葉がはやっているんです。センソリーガーデンと言いますが、少し自然を工夫してあって、例えば障害がある方で普通の自然の中ではなかなか刺激を受け取ることが難しい人たちでも外を楽しめるような工夫が施された、そんな庭づくりも今、進んでいます。
 スヌーズレンの理念の変遷についてですが、当初、スヌーズレンというのは重い障害を持つ人々が受け入れやすい刺激や環境を提供し、そこでは障害を持つ人自身が自己選択で自分自身の時間を過ごす、で、介護者は同じ人間として刺激を楽しみ、互いの感じ方や喜びを共有するというような精神的な部分が大変大切にされていました。今はこれをもちろんベースとしながらも、70年代からもう30年にわたっていろいろな取り組みがなされ、いろいろな方がいろいろな治療法を持つようになり、スヌーズレンで子どもたちが示す変化、例えば鎮静効果、楽しさといった情緒の解放などいろいろな行動のモチベーションを高めて問題行動の軽減や発達支援につながることから、緩やかな治療の場と考えてもいいのではないかという見解をもとに、2002年に設立されたインターナショナル・スヌーズレン・アソシエーション、国際スヌーズレン協会というところで、変わってまいりました。


スヌーズレンの効用

 スヌーズレンを体験すると、介護者がいろいろな体験や気づきを得ます。介護対象だった人たちとゆったりとした時間を過ごすことによって、書いてありますようなことを心深く思うことが多いわけです。そういった気づきから、スヌーズレンの部分で大変大切にされていることをあらわすものとして、ノーマリゼーションとか、メーンストリーミングとか、いろいろな言葉がありますが、現在はインクルージョン、包括という言葉がたくさん使われるようになりました。介護者はその包括というものを体ごと実感できる。あるいは人間の存在価値って何だろうとか、人間の関係とは何だろうとか、障害って一体何だろうとか、障害の有無にかかわらず人生って何だろうとかというようなことに心深く気づいていきます。
 1988年にウィッティング・ホールズ・ホスピタルというイギリスにある重症心身障害者施設を中心に、スヌーズレンのよさを検証するための非常に大規模なプロジェクトが組まれたときに、それにかかわった職員から心境の変化がたくさん報告されて、職員たち自身がそういう自分たちの心境の変化をジェントルレボリューションという言葉を使ってあらわしました。これは、日本語にあえて訳すならば、私の訳ではないのですけれども、やさしく心のこもった革命であって、介護者の心境もどんどん変わっていくということです。
 私は、1991年にオランダで研修を受けた際にスヌーズレンというものを初めて知りました。名前だけはそれ以前から少し日本に入っていましたけれども、早速、帰国してから取り組みを始めました。初めは全部手づくりで空間をつくっておりました。94年に東京都の多摩市にある島田療育センターというところに固定したスヌーズレン空間をつくりました。今現在では知的障害を持つ人々のケアの分野で非常に急速な広がりを見せていて、固定の部屋を持つところ、幾つかの機器を持ちスヌーズレン活動をしている施設は約700 カ所と、とても広がっています。


スヌーズレン空間

 調布市にありますカウンセリングステーション・ユーという事務所の一室をスヌーズレンルームに改造してあります。これからビデオを少し見ていただきますが、これはオランダからのビデオです。非常にコンパクトにまとめてありますが、ワンシーン出てくるのがソフィアという小児病院です。ワンシーンしか出てこないからわからないと思いますが、子どもの入院病室すべてがスヌーズレンルームになっています。次がバクと言う、障害をお持ちの方々の通院施設の様子です。最後に、オキドキと言って、普通幼稚園でスヌーズレンが取り入れられている様子が出てまいります。
(ビデオ上映)
 スヌーズレンで提供する刺激は、基本的にはプライマリーでやわらかくやさしい感覚刺激です。具体的には視覚、聴覚、嗅覚、触覚、振動、固有覚など、五感に働きかける刺激です。また、それらを簡単に組み合わせた刺激なども提供いたします。ねらいとしては余り知的を伴わなくても感覚そのもので感じられるような、いろいろな感覚にダイレクトに飛び込んでくるような刺激をあえて使っております。
 スヌーズレンはインドアのものですけれども、今見ていただいたようにすべて電気で動いており、その人の嗜好や刺激の処理能力に合わせて刺激の種類とか量を調節することができるマルチセンソリーな空間です。


チャイルドケアとスヌーズレン

 さて、スヌーズレンというのは最初に言いましたように、いろいろなケアの部門で広がっていますが、きょうはチャイルドケアということで、チャイルドケアにおける応用とか事例の報告と提言をこれからさせていただきます。
 まず、障害を持つ子どもたちにということです。もともとは重い知的障害を持つ子ども、人々のケアの分野から始まっています。リラックスする子どももいれば、逆に覚せいの低い子どもの覚せいの上昇などといった事例がたくさん見られます。結果的には問題行動や易興奮の鎮静、認知の発育などにもつながっていくことを私自身が多く経験しております。
 もちろん楽しみの場ともなっていますし、その子の発育の場のきっかけとなっているなという感じを持っています。具体的には事例で述べます。例えば重心のお子さんたちなどですと、なかなか表情を読み取りにくかったりしますが、これは古いことですけれども、シェリーンという人たちが交感神経要因の場合とか副交感神経要因の場合に、実際にどんなふうに体の変化が起きるかということをまとめました。リラックスしてくると本当によだれがさらさらしてきたりとか、心拍数が本当に統計的な意味で少し減衰してきたりということがあります。こんなことがよく見られます。

 事例1です。重症心身障害児の10代の男児で、重篤な脳障害と肢体不自由、内部障害を持っていました。日中の覚せいはほとんどなく、教育訓練に参加しづらい状況でしたが、スヌーズレンの刺激環境の中で刺激の種類、量を減らしながら観察することで、弱く動きの少ない視覚刺激に対して覚せいや発声を伴う笑顔が見られるようになりました。そして、数カ月の経過の後、追視などの認知行動が出現してきました。また、スヌーズレン室に来ると自然に覚せいするというような学習も観察されました。
 事例2です。10代のやはり男児です。この子は動ける子で、非常に興奮しやすく、絶えず発汗をしているところから副交感がいつも優位な状態であることが観察されました。スヌーズレンを体験しましたが、最初のうちは何回も出たり入ったりを繰り返しているわけですけれども、徐々に中で落ち着けるようになり、その落ち着きを持ったまま認知課題に取り組んだり、絵本読みに取り組んでいただくと、集中時間が飛躍的に伸びました。他人への興味、模倣が始まり、特に言葉の模倣が著しく増加しました。
 事例3は小児病院です。ヨーロッパ、イギリスでは小児病院の病室には必ずと言っていいほどスヌーズレン施設が置かれています。特にターミナルケアですとかエイズとか特殊な疾患を持ったお子さんたちの病棟では大変重要な取り組みとみなされています。病室そのものがスヌーズレン室になっているわけです。
 日本ではどうかといいますと、重症心身障害者施設において超重症児という非常に重篤な、さらに重篤な障害を持った子どもたちのためのICU での取り組みが始まっています。日本では超重症児の発生率の増加に伴い重心ではICU などが大変ふえているわけですけれども、感染予防やレスピレーターの装着のため困難な子どもたちに対し、外側から遮光カーテンをつけまして、医師との連携プレーの中で、今いいねっていうときにぱっとカーテンを引き、十分に消毒を施しましたスヌーズレン機器を持ち込みますと、覚せいが高まったり笑顔が得られたり積極的な追視活動などが行われたり、困難な健康状態の中でも認知行動の発育支援となっているなという実感を持っております。また看護者にとっても安らぎの時間になります。子どもらしく扱われているということで親御さんたちも安心されます。
 これは家族支援センターの一部です。公共施設でもイギリス、ヨーロッパではたくさんあります。こんなポップな宣伝をして、低料金でだれもが利用できるようになっています。
 日本の現状というのは、最近、この二、三年になってからいろいろな地域の福祉課などから問い合わせがあり、実現に向けた検証が行われているところです。楽しみを共有するというスヌーズレンの理念部分が日本の教育現場になじまないのではないかといって悩みを抱えている教師の方が大変多いのが現状です。


提言

 これまで知的障害を持つ子どもや人々の施設で検証されてきたように、スヌーズレンで大切にされる受容的態度、さまざまな受け入れやすい刺激を自分のペースで受け入れることは、重い障害を持つ子どもたちの認知行動を促進することから、スヌーズレンは養護学校での教育現場にふさわしいと言えますし、教師が障害について思いを深くすることも大切な社会教育なのではないかと感じています。
 特別支援教育という新しい支援教育が始まっていますけれども、対象となっているADD、ADHD、ASS の子どもたちの障害特性から、たくさん叱責されたり正しい扱われ方をされてこなかったため、自己評価がひどかったり、ストレスが高い場合があります。スヌーズレンのようなものを取り入れていただくことは情動のコントロールやストレスの緩和などに非常にふさわしいので、積極的に進めていきたいと思っています。こういったものを保健室などに置かれてみたりして、スヌーズレン空間をつくっていただきたいと思います。
 ネットワークについて、日本にはスヌーズレン協会があります。国際スヌーズレン協会もあります。またワールド・ワイド・スヌーズレンはWeb 上での研究室となっており、非常に広範なところから文献や取り組みを交換する場となっています。

 少しでもスヌーズレンのおもしろさをわかっていただけたらありがたいと思います。御清聴ありがとうございました。

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