速記録(上田信行)

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「Playshop Revisited」

上田 信行 (同志社女子大学現代社会学部現代こども学科)

 今、皆さんにお配りしています「プレイショップ」の資料。1999年にチャイルド・リサーチ・ネット(CRN)の主催で行われまして、そのときに始めました。当時はまだ総合的な学習の時間も始まってなくて、何か新しい教育のビジョンと具体的な形を示そうということで、小林登先生の御理解をいただいて、1年ぐらいかけて、5人のメンバーで設計させていただきました。
 きょうはそのメンバーの3人が登場する予定だったんですけれども、大学の仕事の都合で来られなくなりました。プレイショップそのものを体験していただこうと思っていたのですが、私が代表して、プレイショップとは何か、なぜこういうことを始めたのかということをお話しします。これは討論のところで詳しく話ができると思うのですが、とにかくたくさんのビデオがあるので、それをまずちょっと見ていただこうと思っています。


Playful Spirit

 当時、CRNでは2年に1度、国際会議を開いていました。何か新しいことをしようと考え、会議ではなくて、参加した人たちが汗をかいて頭と体と心を使って何か新しいビジョンをつくろうと、僕たちは一つの大きなキーワードとして「Playful Spirit」というものを考えました。これはどんな状況でもその場の人と物と自分を生かして、いろいろ新しい意味を創造していくようなスピリットです。
 そのころはIQに対してEQとか感情的な資質とかいうことがすごくはやった時代で、先ほど稲葉先生のお話にもありましたようにハワード・ガードナーが多元的な知能論を出していました。僕たちが考えたかったのも、感覚的に一つの何か全体をあらわす実体的な能力ではなくて、「プレイフル・インテリジェンス」ということです。いろいろなインテリジェンスがあると思うのですけれども、一つのコミュニケーションを非常にドラマチックにできるとかプレイフルになるとかというようなことです。
 僕たちの考え方というのは、個の中に存在するのではなくて、状況の中でいろいろな人だとか物だとか、あるいはでき事とかかわることによって立ちあらわれてくる感性だということです。今まで子どもは、自分は頭がいいから、悪いからと、何か実体的なもので考えるから、教育が非常に難しくなってきたのですけれども、そうではなくて、いろいろな物、環境、そして人とのインタラクションの中で立ちあらわれてくる新しき能力観とか感性、そういうものがこれからの時代では大事だということ、それが大きなメッセージだったんです。
 そのときに「Playful Pieces」という、(紙の立体カード)ものでプレイフルを構成するエレメントであるいろいろな考え方を出してみようとしました。英語になっていうのはなぜかというと、5人のチームでMudpieというグループがあったんですが、オーストラリアの人とかアメリカの人とか、いましたので、まず英語で考えて、そしてその日本語をどう考えていこうかというようなアプローチをしたからです。
 プレイショップというのは、これは何かアメリカとかヨーロッパから渡ってきたような概念に思えますが、まさにCRN発の日本の概念なんです。そのときにやはり新しい能力観とか知性観とか、そして新しい教育のビジョンをつくるために考えたわけです。
 例えば「君、IQが低いね」と言われるとちょっと落ち込むかもわからないけれども、「プレイフルスピリットをもうちょっと何とかしろよ」と言うと「そうだねえ。もうちょっと私もプレイフルにいかなくっちゃ」という。プレイショップということを考えた目的は、そういうものの世界へ何かビジョンを移したかったことにあります。


プレイショップ

 それを実現する場としてプレイショップというものを考えたということです。ワークショップというか、ワークよりプレイフルなものをデザインする場として考えたわけです。そこでは夢中になって、いろいろなインプロビゼーションとか、その場で立ちあらわれてくることを大事にしながら、活動のそのときのモデルとしては「つくって語って振り返る」というようなことを考えてみました。
 そのときに提案したのが、例えばイタリア料理モデルというのでプレイショップを組み立てようかということです。アンティパスト、前菜がありまして、プリモというのは第1の皿、1つのメーンのコース、2がセコンドで第2の皿で、さらにドルチェとエスプレッソがある。
 プレイショップは朝から夕方まで一日行いました。200 人以上の方が集まって、親子で、そして実践家も教育者の方も、いろいろな世代間のいろいろなジャンルの方が集まって、一日でみんなで何かをつくろうという会議だったのですけれども、その流れをつくるのにアンティパストから始めたんです。これはアテンションなんですね。何かこう引きつけて、きょうはおもしろいものが始まりそうだという予感をデザインする必要があったんです。

 きょうの僕の話のポジションなんですが、こういう場をどうデザインするか。一つのデザインアプローチの研究を子ども学の中に位置づけたいなということで、きょうの第1回目のこういう会議に出させていただいたのですけれども、そういうところで子どもがプレイフルになるような活動をどうサポートし、どうデザインするかというところに話のポイントがあります。そういうポイントから見ると、プレイショップのデザインというのを、まず注意を引くというところから始めたわけです。
 次のプリモはエンゲージメントする、本気でかかわるというような感じです。最初の第1の皿で何か本気でかかわるのかということになります。今回は、後でちょっと見てもらいますけれども、少しパントマイムのプロの方にガイダンスをしていただいて、体を使って表現するような基本的な練習をしてから、昼からはそれを使って一つの演劇というかスキットをつくるということだったのです。
 それから3番目、セコンドはインタラクションで、そこで交流とかが起こってきます。4番目が少し振り返って、そして何かに気づくというようなことです。

 僕たちはこういう場の設計には非常に気を使ったんですね。できるだけその場に出てくること、立ちあらわれてくることを大事にしながら、少しコントロールしながら、全体を進めていきました。
 これはアンティパストで、ファッションデザイナーの方に頼んで、既製服みたいなものを渡したわけじゃなくて、服のパーツを渡して、そこに自分でいろいろつくっていく。まず自分が何者だということを人に伝えるために服をつくる。そういうことでアイスブレーキング的に、アンティパストできょう、おもしろいことが始まるんだよという予感がデザインされています。
 最初のセクションは、今、映っていますけれども、皆さんがパントマイムの方にいろいろな、ふだんの動きではないようなものをちょっとやっていただきました。体をどんどんほぐすことがすごく大事なんですね。
 だからまず体から入る。それで服をつくる。で、服をつくっている人とコミュニケーションする。そういう非常にダイナミックな活動がまず大事になってきて、そしてきょう必要なある種の道具だてに気がついてもらう。周りの日用品を使って音を鳴らす楽器をつくってみたりとか、そういうふうにこの状況の中にディストリビュートされているいろいろなリソースに気がついてもらう。で、非常に人工的な空間なので、そこにいろいろなものをちりばめて、そしてその道具を使いながら、こう、いろいろ振る舞いを考えていく。
 実は、セコンドの本番に入る前に、皆さんに楽しかったときの思い出の写真を持ってきてくださいと言ってあったんです。そしてそれをグループで話し合いながら、そのことをグループでこう再現するというようなことをやったんですね。
 先ほどの発表でもありました最近接の発達領域のことですけれども、例えば子どもからいろいろな刺激を受けたり、大人から受けたりする。そういうものがマルチプルに、一つのパターンであるんじゃなくて、いろいろな形である。「ここは僕が得意」「ここは僕が得意」というふうに得意なものをうまく持ち寄って、お互いに何かこう補完していく。そういうように少し可能性のゾーンに挑戦しながらいろいろつくっていく。
 最後はドルチェとエスプレッソのところできょう一日の経験を絵にかいてもらったりするということです。やはり学びというのは経験を再構成していくことがすごく大事だと言われています。ですから、きょう一日あったことは楽しかったねえと言って帰るんじゃなくて、きょう、どういうことをやったんだろうということを少し考えていく。それが先ほどの「つくって語って振り返る」の、「振り返る」の部分ですね。


その後のプレイショップ

 第2弾を次の年に、これもCRN主催で、「Feel the Media~メディアを感じてみよう」を吉野(奈良県)でやりました。やっぱり感じるということはものすごく大事なんですね。
 吉野は「吉野の和紙」とか紙すきで有名で、ぜひ子どもを、紙すきのおばあちゃんがやっている工場へ連れていって、紙というものから最後はマルチメディアまで一日でやろうということになったんです。
 皆さんもお気づきだと思いますが、このプレイショップというのは、毎日日常的に続けているものではなくて、やはり一つの大きな機会にたくさんの人が時間をかけて、何かそこにアイデアをつぎ込んで、一日、ちょっと夢のような体験をしてみようというところがあって、その現場でいろいろなもの、使えるものが何か発見できないだろうかと考えてデザインされたものです。
 これは紙すき工場の様子です。こういう本物の場所へ入ると子どもってすごく緊張するんですよ。誰も「静かにしろ」とか全然言ってないんですよ。このすごく真剣な目を見てください。おばあさんがうまくスキャフォールディングというか、後ろから抱え込んでサポートしているという姿はやっぱりすごく美しいという感じがします。

 名古屋の中京大学でもプレイショップの実践がございました。皆さんのきょうのレジュメには宮田先生の実践を中心に書いてありますけれども、彼は子どもといっても高校生までを対象として、その中の一つ「World Youth Meeting」をちょっと見てみましょう。これは高校生を対象として、今までは1日の特別イベントとしてのプレイショップだったんですが、彼は半年間ぐらいかけてずうっとやっています。
 7月が本番で、世界中の高校生が集まり、いろいろコミュニケーションを、発表会をやろうということなんですが、実はそのために4月からずうっとオンラインでどういうふうに進めたらいいだろうかということをやりながら、本番があって、終わってからもまたあるというわけです。
 彼は、この半年間のプレイショップを一つ貫く段階として、始動フェーズ、始まりのデザインということで、異文化の人が出会っていきますから、そういうような、こう、ああ、いろいろな違う人がいるんだなということで、多様性を認識する、あるいは世界観の問い直しが始まるようなことをメールで始めまして、いろいろ準備をしたんです。だから、スタッフであり参加者でもあるんですけれども、どういうふうな「World Youth Meeting」をしようかというものがあって、それで実際の交流フェーズがある。もちろんこの辺は実際の7月に現場で皆さんが集まるというのもあるし、その前後がずっとあるわけですけれども、それに対して自分たちが一体どういう経験をしたのかという成果を吟味し、引き出すという活動になります。
 宮田先生が考えているのは、個別表現からかかわりの表現へ変わっていくということです。プレイショップを通してメディアとか表現感というようなことに対する価値観が変化していくんだと。例えば音楽とか英語でも、ある固定的な使い方とかルールがあって、そのルールを覚えて使わなければいけないというようなところから、人との関係性の中で創発的に立ちあらわれてくるものへと価値観が変化する。それから人間観とか自分観も、自分ひとりが個別の何か特性、能力を持っているというものから、もっとかかわり、つながりを感じていくような、関係的な、創発的なものに変わっていくだろうと、いうことです。
 僕たちがプレイショップをやるときに、どうしても、コミュニケーションを通して、その中で、自分がというよりも、一緒になったら、あの人だったら、どういうことができるんだろうと考えるわけですが、そういう可能性を子どもたち、あるいは参加者に感じてもらうというのはすごく大きな一貫性のあることです。


プレイショップの3層構造 ~オンステージ・バックステージ・メタステージ~

 最近はどういう活動をしているかといいますと、プレイショップというのはそれをやっている現場だけではなくて、バックステージがあって、それがサポートしている。それは例えば記録をしていたり、ビデオで撮ったり、そしてインターネットでリアルタイムで流したりというようなことをしている。コンサートのときでも、オンステージがあってバックステージがありますね。それからメタステージがある。そういう3層構造にする。メタステージというのは、ちょっと上の方から全体の流れを見るイメージですが、プレイショップについてのプレイショップ、ワークショップについてのワークショップということを考える。つまり、仕組みの中に意味を埋め込んで、ここで何が起こっているかということをいろいろな方に見ていただく。
 ちょっと言い方がおかしいですけど、ミュージアムの場合、展示というのがありますよね。僕たちは、人の活動をどういうふうに展示するかを考え、その仕組みをわかりやすくすることによって、ここでの意義を来た方に学んで気づいて帰っていただくというようなことをやっています。
 先ほど言いましたプレイショップの3層構造というか、プレイショップをやっているその周りでバックステージをやって、メタステージをやっている。実はこれ、いろいろなプレイショップが一つのプレイショップの中に入れ子状況で遍在しているんです。


まとめ

 そういう中でプレイフルネスというものはどういう状況で立ちあらわれてくるんだということですが、僕は楽しさということが付加価値ではなくて本質だと思って、まず楽しいことを本当に楽しめる場をつくりたいと思っていました。
 それでぜひ、チャイルド・ケア・デザインとしてのプレイショップをこれから考えて、興味のある方は一緒にやっていきたいと思っているんですけど、大切なのは一つの活動のデザインです。活動というものはそれだけではできない。活動をいろいろ引き起こしていくための、盛り上げていくための道具、空間のデザインが要る。それと、やはり子ども学の例えば実践化の場、子どもたちが一緒に何かを共同してやる場、それがプレイショップなんです。やっぱり一緒に何かをつくって表現しないと、なかなか子どものことってわかりにくいと思うんです。
 その中に世代間の違いがあったり異文化があったり子どもがあったりする。で、一緒になってやっぱり考えていこうという子ども学の一つのスタンスがあります。それからこういうエマージェントで前もって設計できない場にどうデザインとして取り組んでいくかというときに、非常にリフレクティブなデザインの思考がプレイショップのデザイナーにも必要になってくるし、それがまた参加者が今度企画者に回っていく、いい形でどんどん回っていくということにつながる。
 だから、プレイショップを最初周辺で見ていた人が、次、中に入って、次はちょっとお手伝いをして、企画をしてみたいと思うようになる。そういう形でどんどんどんどんこの輪が広がっていくことがプレイショップの一つのいいモデルだなというふうに感じています。

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