第1回子ども学研究会(研究部会) 当日のレポート2

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研究部会運営のお手伝いをしてくださった白百合女子大学の学生さんが抄録をもとに、当日の様子をまとめてくださいました。(お名前は発表者のみ掲載)

 

「夜間におよぶ長時間保育のケア・デザイン-5年間の追跡研究による科学的根拠を踏まえて」

安梅 勅江 (浜松医科大学医学部)


 現在、夜間に及ぶ長時間保育が必要な子どもたちがたくさんいるといえます。しかし今まで、夜間に及ぶ長時間保育は子どもの発達に悪いのではないかといわれることに対して、きちんと科学的な根拠を持った研究がほとんどありませんでした。一方で、全国夜間保育園連盟という認可の保育園の団体があるのですが、認可保育所は全国で60カ所しかないそうです。そこでは非常に質の高い夜間に及ぶ長時間保育を行っているのですが、安梅先生らはそのような保育園のノウハウをすべての夜間に及ぶ長時間保育を必要とする保育に広げたいという思いのもと、7年前にプロジェクトを始められました。全国を回り、実際にお話を伺いながら、どのような保育の質を確保すれば子どもの発達に望ましい効果をもたらすのか、ということを見ていくためにマニュアルを作成され、現在は研修会を開くまでに至っているということでした。現場の状況に関しては酒井先生が写真を使いながら紹介してくださいました。「ケア環境における困難点」ということで、夜間ならではの、安全性の確保、子どものケアニーズと保護者のケアニーズの調整、専門職の役割の切りかえの難しさ、という3点についてお話していただきました。
 また、安梅先生らは作成されたマニュアルのチェックリストを使い、保育サービスと子どもの発達とのリンクを見ることで、保育時間の長さ、夜間の時間帯、朝の時間帯ということが子どもの発達に影響しているのではないということを示されました。保育の専門職自身も、いいケアをすれば子どもたちに悪い影響はないということがわかり、保護者の方に自信を持っていただけるような保育をきちんと提供する、という意味で専門性を持つという意識がより強くなったということでした。またマニュアルの活用で、問題の発生予防、早期発見、早期支援、そしてフィードバックにつなげていくという形をとっているそうです。そして、ケア・デザインという点では、より質を上げるための環境をいかに継続的に維持する仕組みを作るかということがとても重要であり、保育専門職の方がスキルアップするための仕組みとして、自分たちの持っているものを形にして指標にする、その指標を用いてトレーニングする、そして評価してそれをまた指標に結びつける、このようなループを作ることで継続的なスキルアップ、継続的な質向上のための保証ができるのではないかと考えておられるそうです。

【ディスカッション】

Q:

夜間保育の評価指標について、いろいろなチェック項目がありますが、それをどういうふうに集計して評価点をつけるか、そしてその結果の分析はどういうふうにやっているのでしょうか?

A:

テキストの評価指標の部分は、自分のところでは、やっている、やっていないだけではなくて、これは必要ないというものもあるわけです。ですから、これを用いて集計して何点だからだめとか、いいとかという形での評価手法としては使っておりません。これは、保育園の質の評価についての研修の資料ですけれども、一方で、親御さんが家庭でどんなふうに関わっているかという育児環境の指標と、子どもの発達、その3つを結びつけて、どのような関わりがされているか、という部分の比較をいたしました。


Q:

通常の保育園での保育と違って、逆に夜間の長時間だからこういうメリットがあるというような点は、何か浮かび上がってきてないのでしょうか?

A:

継続した支援ができるということや、45人や30人定員の小規模の保育所になっておりまして、異年齢間の交流をしっかり持つことができるということもメリットです。また、子どもたちが過ごしやすい環境を整えるという意味で、部屋を変えたりなど、メリハリをつけるための工夫もしています。また、他の夜間保育所の例ですが、虐待が疑われる子どもたちも、とにかく保育所に来てくれれば、長い時間安全に保育し、2食、食べさせることができます。これはちょっと日常的なことではありませんが、そういった事例が多く出ているところもあります。

 

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「生きる力を育てる『じゃれつき遊び』」

井上 高光 (さつき幼児園)


 井上先生にはさつき幼児園で25年間続けられてきた「じゃれつき遊び」について発表していただきました。「じゃれつき遊び」とはスキンシップを含む室内遊びのことで、抱っこ、おんぶ、追いかけっこ、プロレス、相撲、じゃれ合いなど多種多様なものです。最初、日課の冷水摩擦の際に子どもの体を温める目的で始められ、「じゃれつき遊び」をしたあとの子どもたちは目を輝かせて冷水摩擦をやり遂げたそうです。一時、先生方の体力的な問題から「じゃれつき遊び」を中止した期間がありましたが、園児たちに元気がなくなり、精神的に荒れてしまったため、再開しました。
 「じゃれつき遊び」は大脳前頭葉の興奮過程と抑制過程を発達させ、興奮と抑制の切り替えのいい「活発型」の子どもを育てるのではと考えています。大脳前頭葉の調査では、さつき幼稚園の年長児の「活発型」の割合は普通の園児を上回っていました。しかし、1992年以降「活発型」は急速に減少しました。これは園児の運動量の減少に関係していて、実際、歩数調査における全園児の平均歩数が大幅に減少していたそうです。「じゃれつき遊び」の本来の姿も失われたことの対策として、万歩計を子どもに着用させて運動を促したところ、運動量は劇的に増えたのですが、万歩計の着用を止めた途端、元の状態に戻ってしまいました。このことから、子どもたちの能動的な活力を高めないと根本的な解決は望めないと考え、「じゃれつき遊び」を活発にするため、園児の父母の参加を促しました。その結果、本来の「じゃれつき遊び」の姿が回復するとともに、運動量や「活発型」の割合が増加しました。
 最後に、「じゃれつき遊び」は子どもの諸能力を発達させることができる活力があって、アットホームな保育の雰囲気を作るのに力を発揮していると述べられています。

【ディスカッション】

Q:

「じゃれつき遊び」は子どもたちにどう呼ばれ、どのようなきっかけから開始されるのですか?

A:

子どもたちの間でも「じゃれつき遊び」と呼んでいます。遊びの開始の仕方は、先生が中心になって遊びをリードし、展開する形で行われています。興奮が高まると、子どもだけでも遊ぶことも出来ます。


Q:

「じゃれつき遊び」と前頭葉がなぜ結び付けられなくてはならないのでしょうか。本当に前頭葉だと証明できるのでしょうか?

A:

専門の立場ではないのですが、子どもの実態を科学的に把握するために、大脳と自律神経系に関わる調査を行っていて、前頭葉に関しては継続的に20年行っています。その結果、他のデータと比較すると、前頭葉はかなりいい値が継続的に出ているため、今のところ関連があると考えています。逆に言えば前頭葉のことしか調査していないので、他のところについては何も言えないということになります。


Q:

子どもの体を触る異常者、いわゆる、ペドファイルの問題が教育現場でも問題になっていますが、このことに関連して「じゃれつき遊び」に何かルールのようなものはありますか?

A:

私は「じゃれつき遊び」を幼児とは毎日、小学生とは週一回しています。しかし、今のところはそうした問題は発生していないと思っています。むしろ、幼児期に「じゃれつき遊び」のようなスキンシップが十分に出来なくて信頼関係が作られなかったケースのほうが、問題を起こす可能性が高いのではないかという予想を立てています。

 

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「ママネット;ITを活用した子育て支援環境デザイン」

竹村 真一 (京都造形芸術大学)


 竹村先生らは、インターネットや「ケータイ」を応用したシステムを、たとえば子育ての現場に応用したときにどんな可能性があるだろうかということの検討を始め、これは大いに可能性があるのではないかということで、昨年の秋頃からプロジェクトを立ち上げられました。プロジェクトの背景として母子の社会的孤立感ということが考えられ、情報を持っていたとしても共有化するためのプラットフォームが十分にないのではないか、ということからITの可能性が浮上しました。ITには、非対面的なコミュニケーションゆえの自由というものもあります。今までもパソコンベースの掲示板はありましたが、パソコンというのは子育ての現場には持ち込めないということなどから、時間的にも空間的にも分離していた両者を近づけていける可能性があるものとして、ケータイを活用することが提案されています。
 実際に行っていることとして、ケータイで投稿されたものがダイナミックに共有されていくような掲示板、ケータイ同士でメールがリレーされていくような仕組み、それが現場性と臨場感をもって可視化されるようなツール、という大きな3つの柱があるそうです。「100万人のキャンドルナイト」や農業生産者の生産日記のようにリアルタイムに他者の存在を実感できるようなことが行われていて、子育て環境においても、リアルタイムの可視化が日本全国規模で行われるということがあってもいいのではないかということです。そして「あい・ぽーと」というところで実証実験を始められているということで、ケータイのカメラ機能を使ったリレーメールなどの説明をしていただきました。また、実際に掲示板に発表会場から投稿をしていただき、その場にいなくとも一緒に共有しているという空気が作れるということを実演していただきました。そして竹村先生は、ハードウェア・ソフトウェアに対して「ソーシャルウエア」と呼んでおられる、複合的な仕組みを駆使しながら子育て環境を支援していけるようなものの開発が必要であると考えておられるそうです。

【ディスカッション】

Q:

セキュリティーの問題とか、必ずその場を乱す人たちがいて、フレーミングという問題があると思うのですが、どのようなお考えでしょうか?

A:

おっしゃることは、もちろん、本当にそのとおりであります。今までのところ「キャンドルナイト」なんかは、完全に不特定多数なんですけれども、嫌な書き込みはございません。また、農業の場合も、基本的に農業者の発信ということになるんですけれども、子育ての場合そこは同じようにはいかないであろうということは思っております。完全に不特定多数でもクローズドでもない中間段階を試みています。


Q:

この「ママネット」には男親の参画というのは可能性があるんでしょうか?

A:

私も当然、普通に参加していきたいと思っています。だんだん、お父さんのオンラインプレゼンスが高まっていくことを通じて、そのうち発信の主体としてもお父さんが巻き込まれていく、そういう場、空気をつくっていきたいと思っております。


Q:

一人じゃないという感覚がすごく大事だというお話でしたが、プロジェクトの中では、不特定多数の方々が反応を返してくださることで一人じゃないと感じられるということでした。自分のよく知っている人が見ていてくれるというような意味での、一人じゃないという感覚と、何か違いがあるのでしょうか?

A:

一人じゃないというのは、ただ単に孤立感をどうこうというだけではないのです。反応が誰かから返ってきたとき、自分の発信、自分の子どもの何か新しい現象が認知を受けたと感じます。そういうリスポンスがある関係を作りたいというところが基本的にあるのですが、今のところの不特定多数の投稿が来るというのは、ミニマムなところで自分一人ではないという存在の気配を感じていただくという、一番初歩的なことです。


Q:

ケータイのメールを使うことで子どもから目が離れること、また子どもにケータイを使うモデルを与えることについてどう考えますか。

A:

ケータイという環境が普及している中でそれを有効に活用しようという議論と、ケータイの使用をライフスタイルの中である程度限定していこうという議論は、決して混同すべきでないと思います。

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